『戦略的大学職員養成ハンドブック』岩田雅明著(ぎょうせい)の第6章には「大学職員のキャリア紹介―5人の職員たちの、これまでと今、そしてこれから」が収められている。
第一線で活躍されている(こられた)方々の、設問に答える形式の内容になっている。
大学職員の皆さまにぜひ読んでいただきたいと思い、取り上げたしだいである。
2回目の今回は、倉部史記氏(NPO法人NEWVERY高大接続事業部ディレクター)である。
倉部氏は現在、同法人で主にWEEKDAY CAMPUS VISIT(WCV)を担当されている。
それではご紹介しよう。
大学への変わらぬ声援と支援
高等教育を広い視野で見通せるプロフェッショナルに
倉部氏のこれまでの職歴は、
ウェブ広報プロダクション
↓
大学事務職員
↓
予備校
↓
NPO
となっている。
特筆すべきはこれまでの自己啓発ぶりで、
- 慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了
- 桜美林大学大学院 大学アドミニストレーション専攻 科目等履修生
- 大学行政管理学会
- 放送大学教養学部「教養と心理」コース 学士(教養)を取得
- 青山学院大学社会情報学部「ワークショップデザイナー養成プログラム」修了
といった具合である。
本業の傍らにこれだけの勉強をし、合間にブログの執筆やそのほかの勉強もしてこられたのである。
大変な勉強家であり努力家なのだ。
職員だったころの目標設定を以下のように述べている。
ただ組織に長くいて、学内の事務処理に詳しくなっただけの「ベテラン」ではなく、高度な専門知識と業務遂行能力を持ち、高等教育の世界を広い視野で見通せるプロフェッショナルになりたい。
大学の課題
同氏が職員であったときに感じた大学の課題は、以下のようなものだ。
- 教員と職員の「教職協働」が必要と言われているが、実態としては職員を「事務方」としてしか扱わない教員も少なくなかった。
- そういう認識があるのを良いことに、なるべく責任を負わない立場であることを楽だと考え、自らその水準の仕事に甘んじてしまっている職員も多かったように思う(現在もこの状況はあまり変わっていない)。
- (以上のことは)大学業務の高度専門化を阻むと同時に、職員自身のキャリアを危うくしてしまっている。
- (ガバナンスのあり方)責任の所在があいまいで、物事の決定がなかなか進まない。
- 部署間の垣根も高く、組織をまたいだ協働が柔軟に行えなかった。
- 現地点の問題をPDCAで改善・解決していくのではなく、「問題を起こさないことが第一」という減点主義、ルーティンワーク中心の仕事スタイルを当たり前と考えてしまっている組織風土にも、改善すべき点がある。
- これでは、自分たちでゼロから物事を企画する気風が生まれず、他大学の成功事例を模倣するばかりの組織になってしまう。
- これでは意欲ある若手職員や、他業種からの転職者も、危機感を抱いて離職を考えるだろう。
そしていまは、職員のときに感じた課題を、大学の外から解決できれば・・・と思って仕事をしている現状だと述べている。
大学職員へのメッセージ
若手大学職員に対して、こう伝えることにしているそうだ。
この中の何人かは、定年まで現在の所属先にいないと思います。その中には、外部から大学業界を支援する仕事に就く人もいるでしょう。
さらに、こうも述べている。
大学内部の課題を知っている人が、外に出てNPOを設立し、機動力やネットワークを武器にして大学の課題解決を支える・・・というのは、大学職員の新たなキャリアになる。
同氏も、大学職員だった頃より、今のほうがずっと業界のお役に立てていると感じているそうだ。
まとめ
筆者にもこんなエントリーがある。
大学職員の枠からはみ出た人たち | One Biz
転職を勧めるわけではけっしてなく、「そういう道もあるのではないか。NPOであれば職場に籍を置きながらでも活動できるのではないか」という趣旨である。
ほぼ生涯を現役で働かねばならないこれからの世代の人たち。
そうであるからこそ、一度しかない人生を倉部氏のように生きてみるのも「あり」だと考えるのは筆者だけであろうか。
- 作者:岩田 雅明
- 出版社:ぎょうせい
- 発売日: 2016-02-26
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