『降り積もる光の粒』 角田光代 (東京:文藝春秋, 2014)を読了しました。
すぐにでも旅に出たくなる、すばらしいエッセイ集でした。
ご紹介しましょう。
角田光代氏が述べる、旅でしか得られないもの
角田氏は、旅でしか得られないすばらしいものを次のように述べています。
旅を終えたとき、私たちは気づくのだ。
それら(旅の記憶)が、きらきらと光を発しながら自身の内に降り積もっているのを。
困難や疲労は、住み慣れた場所に帰れば消える。けれど、見知らぬ土地で蓄えた、そうしたちいさな光の粒は、時間の経過とともにますます輝きを強くする。
それを一度知ってしまった人は、面倒でも、疲れるとわかっていても、無益だとわかっていても、どうしようもなく旅に出てしまう。旅に、取り憑かれてしまう。
いってみれば、光の粒コレクターになってしまうわけである。
本書は4章から構成されています。
第一章 「旅先で何か食べるのが、私はよほど好きなのだ」
第二章 「旅には親役と子役がいる。年齢や関係じゃなく質だ」
第三章 「旅と本に関しては、私には一点の曇りもなく幸福な記憶しかない」
第四章 「彼女たちは、母親の世代からずっと、ひどい仕打ちを受けているという意識はあった」
第一章と第二章は、旅に関するコラム集ともいうべき内容になっています。著者のドジぶりは読者の共感を呼ぶことでしょう。
第三章では、「旅を楽しむ30冊」が紹介されており、これが滅法面白いのです。
私は、リストのうち3分の1を読了していましたが、一方これから読んでみたいのは何といってもすぐれた翻訳者でもあった田中小実昌です。
ここで紹介されている『田中小実昌紀行集』『コミさんほのぼの路線バスの旅』『田中小実昌エッセイ・コレクション2 旅』は、面白いに違いありません。
『降り積もる光の粒』のハイライト
第四章は本書のハイライトというべき内容です。
NGOのプラン・ジャパンから依頼を受け、訪れたアフリカのマリとインド、そしてパキスタン。
マリでは女性器切除廃止運動を、インドでは人身売買や性的搾取の被害者を保護するシェルターを、そしてパキスタンではスラムを訪れたルポです。
これは、ぜひ皆さまご自身で読んでいただくほかに感動を伝える術はありません。
そして本章最後は、「三陸再訪」と題された被災地への二度目の訪問記です。
そういうわけで、本書は旅好きか否かを問わず、おススメできる良書です。
若い人たちの居場所
ところで、旅とは直接関係のない話題ですが、私がもっとも興味深く思った箇所があります。それは若い人たちがいま、「居場所がないから、自分がうまく順応できる社会を探してまわっているのではないか」という指摘です。
角田氏の時代では、居場所は「家」だったのが、いまは「社会」になっているというわけです。「意志に反したとしても従わなければならない何ごとか」があるのは社会だと述べています。
個人的にも深く考えてみたいテーマです。
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