日 時:2015年12月5日(土)13:00〜17:00
テ ー マ:「前門に教養主義の衰退、後門に反知性主義」
場 所:関西大学千里山キャンパス
このページの目次
意見発表1 反知性主義的空気と大学改革
竹内 洋氏(関西大学名誉教授・京都大学教育学部名誉教授)
●グローバル化時代のサバイバル戦争への危機意識
- 昔の大学は教授本位大学だった。
- 文科大臣からの通知(文科省ではなく、官邸からの依頼だと聞くが)だが、私学の人社系はどうするのか?通知の背景にあるのは、グローバル化時代のサバイバル戦争への危機意識だ。今回物議を醸してかえってよかったのではないか。
●エリートの反知性主義
- 実用知は◯、総合知=洞察知・批判知は✕
●「大学改革」をメタ評価
- 上からの大学改革政策ゆえの現場での適応能力の問題がある。「バスに乗り遅れるな」という大政翼賛的大学改革や、「上に政策あれば、下に対策あり」という「ふりをする」大学改革、という現状がある。現場と対話する大学改革が必要だ。
- 学部教育の多くは教養教育で、センスの素としての教養や道具箱としての教養が大事。
- 教育(農業)の時間とビジネス(工業)の時間
ビジネスの感覚で大学改革をやっている。「大学改革」自体を評価することも必要ではないか。
意見発表2 反知性主義―世界的文脈と日本的特徴
白井 聡氏(京都精華大学 人文学部専任講師)
●反知性主義は「人間」の終焉
- 大学改革はマイナスばかり
- 教養主義的なものの崩壊は根幹の問題で、学生が学ばない、学ぶ気がない、モチベーションが低い。学生のやる気を引き出すには?
- ホーフスタッターによる反知性主義の定義は、「知的な生き方およびそれを代表するとされる人々に対する憤りと疑惑」「そのような生き方の価値をつねに極小化しようとする傾向」。知的なものに対する無関心ではなく、より攻撃的な原理である。
- 愚民化政策と反知性主義との類似と差異
反知性主義はデモクラシーを前提にしている。 - 現代の反知性主義の文脈Ⅰ
階級言語(ヤンキー、B層、下流)の復活。反知性主義は、これらの新しい下層階級の「階級文化」の一部を形成し、政治権力・経済権力はこれを支持基盤に組み込もうとする、という仮説。
- 現代の反知性主義の文脈Ⅱ
学問の「人間性の探求・完成」の放棄は「人間」の終焉である。 - 反知性主義の日本的特徴
「社会」「権利」概念の不在・無理解と、弁証法的生成の原理を欠いた国家社会で、必然的停滞をもたらす。 - 否認先進国日本、あるいは日本化する世界
「否定的なものの否認」が全般的な文化モードとなる。
意見発表3 反知性主義と大学における教養
森本あんり氏(国際基督教大学 学務副学長)
●教養とは「自己へのふりかえり」の能力を身につけた知性
1.「反知性主義」とは
- 「既存の」知識への反撥で、あらたな知性を生み出す「反権威主義」
- 上下運動(キリスト教のリバイアリズム)がもっとも働かないのが大学だ。
2.「ハーバード主義」(Harvardism)
- 「ハーバード大学」ではなく、「ハーバード主義」に反対。つまり知性の越権行為、知性と権力の結託、世代間格差固定化への反対(ピケティ問題)である。
3.アメリカの反知性主義の駆動力=「平等」理念
- 反知性主義は経済格差是正のベクトルに
- たとえタテマエであっても「平等」は社会を変える駆動力
4.では「知性」(Intellect)とは何か
- インテレクチュアル(知性)は再帰的な知であり、自己へのふりかえりの能力で、大学が育てるもの。
●内部崩壊している大学院
5.日本の伝統における「教養」の位置づけ
- 日本の大学院教育は内部崩壊している。院生が多すぎて指導できない。外国の大学院と比べると、日本の大学院は肩書だけで、抜本的に見直さないと無理な話だ。
6.人格の基底にある倫理性
- 大事なことは「自分の行動を倫理的に判断する力」であり、最後に人を動かすものは、損得勘定ではなく「教養」である。
ディスカッション
パネラー:竹内洋氏/白井 聡氏/森本あんり氏
コーディネーター:関西大学学長補佐・法学部教授 西村枝美氏
参加者からの質問(質問票)に、講演者が答える方式で進められました。
【竹内】
(Q)反知性主義的空気はどのように生まれたか?
(A)日本社会は知性をタテマエとしては尊重してきた。本音はうさんくさいと思っている空気は当然あった。
戦後はアングラ化し、ミニ教養主義(大衆文化)であった。今は居直る大衆文化となりフラット化し、庶民のホンネが顕在化している。
日本人は「半知性主義」。「主義」になると暴力的になり「反」が出てくる。反知性主義は知性主義の試金石で、どうしてそんなものが出てきたのかを考える必要がある。
【白井】
(Q)低所得者層が下層階級か?先日の選挙でも、大阪維新を支持しているのは中所得者層以上のようだが。
(A)健全な反知性主義は庶民の反撥。橋下ブームは中以上の階級が支持者 で、これはあたらしい下層階級。反知性主義は学歴とは関係がない。
(Q)反知性主義の政治利用についての対応方法について
(A)辺野古は迷惑であり、差別。
(Q)本当に求められる大学改革とは?
(A)これまで大学が行ってきたこと=「財産目録」を作ることなく改革を行ってきた。財産目録を作り、見直す改革を。
【森本】
(Q)いまの改革が大学の付加価値を消す、という意見があるが。
(A)全国の大学の4分の3を占める私立大学への、国からの援助は学生一人あたり14万円。国立大学は180万円。これは不平等に過ぎる。
【竹内】
(Q)教養教育について
(A)教育社会学は、教育を通じて社会を理解する。人文社会系とはそういうもの。
学会が制度疲労を起こしている。論文も減点主義で読んでいて面白くない。そういう育成をされた教員は?
教員の処遇の問題がある。アメリカの制度をモデルにしながら、これは取り入れない。文系は採用当初からテニュア付きだが、そんなことをやっていていいのか?
大学はイノセントではない。内部から能動的に自分のやりたい方向に改革しなければならない。
感想
印象に残った意見はつぎの3点でした。
- エリートは実用知は認めるが、洞察知や批判知といった総合知に対しては批判的(「反」)である。
- 「大学改革」自体を評価する必要がある。
- 「教養」とは自己へのふりかえりの能力
やはり大学改革についての意見に注目してしまいます。御三人ともそろって「大学改革」には批判的でした。
おそらくは多くの大学人が(それぞれの見解はもちろん異なるにしても)同じように感じているのではないでしょうか。
上記で指摘されているように、そろそろ「大学改革」そのものをメタ評価しなければならない段階であるのかも知れません。
そして、竹内先生が指摘されているように、大学は内部から能動的に自分のやりたい方向に改革しなければならないのでしょう。このことは先日のBetweenセミナーでも、成功している大学のファクターとして指摘されていたことでした。
ミッションと3つのポリシーに基づいた確固とした教育方針。それを実現するために編成された教授団と事務組織。世間の動向に敏感でありながらも、それに右顧左眄しない屹立した姿勢。いま、これらが必要ではないでしょうか。あらためてそう感じさせてくれたフォーラムでした。
フォーラム終了後、恩師である竹内先生にお会いすることができました。約40年ぶりの再会でしたが、私のことを憶えてくださっていたのには感激しました。
「いっしょに信州へ旅行に行ったよねえ」とおっしゃる様子はあの頃とほとんどお変わりありませんでした。ゼミでは教育社会学を学び、高等教育の世界に入った私が、こうして恩師と母校で再会できたことに、人生の縁を感じざるを得ませんでした。
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