人文社会系学部の反省と展望 佐和隆光ー「IDE現代の高等教育」No.575 特集:文系の危機を読む(1)

「IDE現代の高等教育」No.575

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今回は1回目で、佐和隆光氏の論稿です。

それではご紹介します。

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1.人文系教育は本当に役に立たないのか

  • 学部学生時代に、アダム・スミス、マルクス、ケインズなど経済学の古典に挑んだ体験は、今日の複雑な社会経済問題を考えるに際し、非常に役立つことを私は実感している。
  • 要は、「役に立つ」「役に立たない」の判断基準次第なのだ。
  • 人社系の学生の場合、工学部の学生のように、就職してすぐに役立つ知識ないし技能を大学で学ぶわけではない。だが、すぐに役立つものは、すぐに役に立たなくなることを忘れてはならない。
  • 技術的色彩の濃い職種ほど、人工知能やロボットに取って代わられやすい。
  • 人社系の学識は、すぐには役に立たなくとも、長い目で見れば、「真の学力」が貴重な知的財産となるのだ。
  • 経済学の場合、経済学の教科書化が進んだせいもあって、古典の読解に挑戦する学生はほとんどいなくなった。
  • 簡単な数式を使ってのマクロ・ミクロ・計量経済学の触りを学ぶだけでは、ほとんど役に立たない。
  • 人社系の学問を学ぶことの意味と意義とは何なのかを改めて吟味し、教育改革に取り組む必要がある。

2.日本の大学の世界ランキングはなぜ低い?

  • 日本の大学の人社系分野の教育研究の評価が極端に低いからだ。
  • (2014のTHEでは)ベスト10の常連校を見ると、人社系の分野で高得点を稼いでいる。
  • 分野別のランキングを見ると、人文系トップはスタンフォード大学、日本の大学は1校も入っていない。
  • 人社系の分野を縮小・廃止したり、社会的要請の高い分野に転換したりすれば、日本の大学の世界ランキングは一段と低下するはずだ。
  • 世界の有力大学に比べて圧倒的に見劣りがする文系分野への梃子入れこそが、日本の大学のランキングを上昇させる近道なのだ。

3.ピケティと人文知

  • 言葉の障害という壁が、日本人経済学者の業績(publications)を数理・計量経済学に閉じ込めている。
  • ピケティの本がこうまでも多くの読者を惹きつけたのは、バルザックの『ゴリオ爺さん』他の文学作品、歴史学、社会学など幅広い人文知がちりばめられていたせいだ。
  • 日本の政治家、官僚、経営者の大多数が、人文知を決定的に欠いていることは「事実」として認めざるを得まい。
  • いわんや大学の人社系学部、とりわけ人文系学部を廃止したりすれば、官僚、政治家、経営者が工学部出身者だらけになり、日本の外交は成り立たなるであろう。

4.スティーブ・ジョブスと人文知

  • スティーブ・ジョブスはiPad2の発表会で次のように述べた。「iPad2のような心を高鳴らせる製品を創るには技術だけでは駄目なんだよ。人文知と融合した技術が必要なんだよ」と。
  • 世界中のスマホ、タブレットの部品は日本頼みなのだが、製品は圧倒的な輸入超過である。その理由は、日本のエンジニアが人文知を欠いていることだ。
  • 今、必要なのは、大学入試と高校教育の在り方の抜本的改革である。文系学部の入試に理科や数学を課し、理系学部の入試に国語や社会を課すべきだ。
  • 日本の産業競争力向上を図るために、大学入学後も、理系学生に人文知を学ぶ機会を提供すべきである。
  • 人社系学部・大学院の廃止・転換は時代錯誤的である。

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非常に分かりやすく、論点の明確な内容です。

人社系分野の評価が極端に低いことが、日本の大学の世界ランキングが低いひとつの理由だということは知りませんでした。己の不明を恥じねばなりませんが、そうだとすると、「世界の有力大学に比べて圧倒的に見劣りがする文系分野への梃子入れこそが、日本の大学のランキングを上昇させる近道」という主張は俄然説得力のあるものに思えてきます。

「文系学部の入試に理科や数学を課し、理系学部の入試に国語や社会を課すべきだ」という主張はまったく正論であり共感できるのですが、学生集めに四苦八苦している多くの大学にとっては理想論でしかありえないでしょう。せめて国立大学をはじめとするトップ大学で実現していただきたいと願うばかりです。

⇒第2回:逆風下の文系学部とその役割を読む。

【目次】文系の危機―「IDE現代の高等教育」No.575 2015年11月号を読む

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大学職員ブロガーです。テーマは「大学職員のインプットとアウトプット」です。【経歴】 大学卒業後、関西にある私立大学へ奉職し、41年間勤めました。 退職後も、大学職員の自己啓発や勉強のお手伝いをし、未来に希望のもてる大学職員を増やすことができればいいなと考えています。【趣味】読書・音楽(主にジャズとクラシック)・旅 【信条】 健康第一であと10年!

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