はじめに
週刊東洋経済2018年2月10日号のご紹介。
特集は「大学が壊れる」。
Part1は、国立大学クライシス
Part2は、私大淘汰時代が来る!
となっている。
特集ページも公開されている。
一読して、筆者は以下の2点について疑問をもった。
- 国立大学の運営交付金は減少していない?
- 規模が大学経営を左右する?
国立大学法人の運営交付金は減少していない?
「財務省キーマンの反論『大学の封建制、閉鎖性こそ問題』」と題した、財務省主計局次長・神田眞人氏へのインタビュー記事である。
運営費交付金の削減が日本の研究力低下の原因との声がある、という質問に対し神田氏は、
減少の多くは付属病院の赤字解消や退職手当減といった特殊要因で、実質的にはあまり減少していない。
とし、さらに、
一方で補助金は増えており、結果、国立大学の研究費は法人化以降、1000億円増の3300億円に著増している。
と述べておられる。
・運営費交付金はあまり減っていない。
・研究費はかなり増えている。
というわけである。
「運営交付金が年々減らされているから苦しい」という国立大学法人の意見と、あきらかに異なるこの発言に首をかしげざるを得ない。
配分方法等を議論する前の大前提となるのが、予算額である。
いったい両者のどちらが正しいのか、誰もが本当のことを知りたいのではあるまいか。
その場合、感情的な意見ではなく、根拠を示して門外漢にもわかりやすい説得力ある説明をしてほしいものである。
もとより原資は血税だからである。
規模が大学経営を左右する?
以前、「スケール・メリットが大学経営を安定させる」という意見を聞いたことがある。
本誌でも、「大学の収益性は都市部か地方かよりも大学の規模(定員の多寡)に左右される傾向がある」と述べられている。
これらの意見には、いささか違和感を感じる。
大規模校は、ごく一部を除けばそのほとんどがブランド校、準ブランド校であり、受験生が安定的に志願するのは当然ではないか。
量的拡大より質の充実、そして縮小均衡が、今後高等教育業界が採るべきあるいは採らざるを得ない唯一の道であり、国公私を超えた再編スキームが政府で議論されているのが現状である。
それにもかかわらず、近年、大規模校ーだけではもちろんないがーは学部・学科増等により大幅な定員増を行ってきた。
たとえその戦略に合理性があったとしても、「スケール・メリットが大学経営を安定させる」という、その考え方・経営センスへの嫌悪感が筆者の違和感の正体かもしれない。
おわりに
「日本の政策文書には、判断の根拠の提示も、事実から帰納的に政策を考えた痕跡も見られない」との指摘がある苅谷剛彦氏の「『大学性悪説』の論理が日本の大学を疲弊させる」も興味深い。
東洋経済の特集『大学が壊れる』
研究や産学連携による金稼ぎも大事かもしれないが、大学のそもそもの本分である教育にこそもっと力を注ぐことを真剣に考えるべきではないかと思う。ほとんど誰も言わないのが不思議。https://t.co/AHis1fFzT6— なかのとおる (@handainakano) 2018年2月6日
教育についての記事がほとんど見られないのが残念だが、丁寧な取材が光る労作となっている。
一読をおすすめしたい。
- 2040年代における大学の役割と使命 大学行政管理学会(JUAM) 特別シンポジウム(3) - 2018年12月25日
- 2040年代における大学の役割と使命 大学行政管理学会(JUAM) 特別シンポジウム(2) - 2018年12月20日
- 2040年代における大学の役割と使命 大学行政管理学会(JUAM) 特別シンポジウム(1) - 2018年12月19日