本書は、
- 児山紀芳氏のジャズとの半生
- ジャズ・ジャイアントとのエピソード
- ジャズ・ジャーナリストの心構え
- NHKFM「ジャズ・トゥナイト」への愛
などについてわかりやすく述べられており、年齢を問わず、すべてのジャズ・ファンの必読書となっている。
筆者の知るかぎり、児山氏のはじめての著書である。
このページの目次
目次 ジャズのことばかり考えてきた
目次とそれぞれについての筆者の簡単な説明をしておこう。
はじめに
本書執筆のきっかけについて児山氏は、「ジャズと走りつづけた半生を、一度総括をしてみたらどうかという機会を得た」と述べておられる。
Ⅰ ジャズ・ジャーナリズムの誕生
青春時代から「スイングジャーナル」誌編集長時代までの思い出が述べられている。
Ⅱ つくり手の視点から
「スイングジャーナル」誌勇退後、レコード会社でのレコード制作、未発表音源発掘時代の思い出が述べられている。
Ⅲ ジャズ・ジャイアンツの肖像
マル・ウォルドロン、アート・ペッパー、ソニー・ロリンズ、秋吉敏子、ヘレン・メリル、ジョン・ルイス、レイ・ブライアントなどのミュージシャン、そして「ジャズの立役者」として、レナード・フェザー、ダン・モーガンスターンとの思い出が述べられている。
Ⅳ これからのジャズ
「ジャズ・ジャーナリストの資格とは」というテーマで、厳しくも興味深い持論が述べられている。
対談
巻末には、「ジャズ・トゥナイト」の担当ディレクター・田村直子氏との対談が収録されている。
児山紀芳氏のプロフィール
あらためて児山氏のプロフィールをご紹介しておこう。
児山紀芳(こやま・きよし)
ジャズ評論家。1936年大阪生まれ。関西大学文学部英文科卒。「スイングジャーナル」誌編集長を2期17年にわたってつとめ、秋吉敏子、ヘレン・メリル、ソニー・ロリンズ、マイルス・デイヴィス、ジョン・ルイスなど国内外の多くのミュージシャンと親交を結ぶ。80年代には米レコード会社のマスターテープ保管庫から未発表音源を発掘、「キーノート・コンプリート・コレクション」、「ブラウニー:コンプリート・クリフォード・ブラウン・オン・エマーシー」でグラミー賞の「ベストヒストリカルアルバム部門」に2度ノミネート。米「ダウンビート」誌が行う国際批評家投票に唯一の日本人として投票に参加。NHK-FMの歴代のジャズ番組のパーソナリティを担当し、現在も「ジャズ・トゥナイト」を担当。(本書「著者略歴」より)

素晴らしいものを聴いてほしい。それがわたしの気持ち
ジャズ評論家としての基本的なベースについて児山氏は、
こんなに素晴らしいアーティストがいて、こんなに素晴らしいアルバムを作っているので、みなさんにも聴いて欲しい。わたしのベースにあるのはすべてその気持なんです。
と述べておられる。
素晴らしい言葉である。
素晴らしいジャズを見つけて、それを独り占めすることなく、みんなにシェアする。そしてそれを聴いてもらって喜んでほしい。
評論家のなすべき仕事は、まずこれではないかと思わされるのである。
ジャズ・ジャーナリストの資格とは
ジャズ・ジャーナリストの資格については、以下のように述べておられる。
自分の中に叩き込み消化し、評価を下したものを文章にして、ジャズが好きな人、あるいはジャズをまったく知らない人、そういう相手に向けて自分が考えていることを適確に伝えるのは難しい。
誰に読まれるか分からない中で、人に届く文章を書く才能を獲得するには、相当なトレーニングが必要なんですね。その技術は、天から降ってくるようなものではないんです。
ジャズに詳しい人や、膨大なレコード・コレクションを持っている人は多くいる。
しかし、それらの人たちがジャズ・ジャーナリストやジャズ評論家になれるわけではない。
「人に届く文章を書く才能を獲得するには、相当なトレーニングが必要」だということだろう。
「ジャズ・トゥナイト」によせてーエネルギーと情熱がなくなったら終わりー
出演依頼があったとき「涙が出た」というほど嬉しかったという「ジャズ・トゥナイト」。
そのディレクターである田村直子氏との対談は、本書の白眉である。
なぜなら、児山氏の現在の活動を肉声で知ることができるからである。
ジャズ・ジャーナリストたるもの、受け身ではなく能動的に、日本だけのマーケットじゃなくて、世界の状況を把握しながらその中からいいものを見つけ出す。
わたしはそういうエネルギーと情熱がなくなったらジャズ・ジャーナリストとしての自分自身は終わりだと思っています。
ご自身を厳しく律しておられるようだ。
人種差別の経験
本書では、児山氏が経験した米国での人種差別の実態が折々に紹介されている。
ウィントン・マルサリスといっしょにいたコーヒーショップで、注文を待っていても声がかからなかったこと。
秋吉敏子氏には「グラス・シーリング」という曲があり、「ガラスの天井」は彼女にも重くのしかかっていたであろうこと。
そして、児山氏自身のグラミー賞落選、制作したアルバムの評価のこと。
それらのエピソードが、抑制された口調で述べられている。
愛蔵にふさわしい装幀とユーモアあふれるタイトル
本書は、さすが白水社らしい洒落た装幀となっている。
表紙カバーをめくるとクロス装である。
そして、植草甚一氏を思い出すタイトルと、「ジャズばか考」と読めるユーモアあるタイトルデザインによって、多少価格は高くとも、愛蔵するにふさわしい一冊となっている。

「ジャズ・トゥナイト」よ永遠なれ!
というわけで、本書が多くのジャズ・ファンに読まれることを願っている。
そして、何よりも「ジャズ・トゥナイト」とともに、児山氏の益々のご活躍を願ってやまない。
【追記 2018年10月6日】
NHK「ジャズ・トゥナイト」のウェブサイトを見ると、以下のお知らせがあった。
児山紀芳さんは体調不良のため、当面番組をお休みします。番組の進行は、これまでゲスト出演いただいたゆかりのあるミュージシャンの方などが担当します。
お元気になられて、復帰されんことを心からお祈りしている。
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