職業としての小説家 by 村上春樹 (東京: スイッチパブリッシング , 2015)。
発売日に入手し、早速読了しました。
ご紹介しましょう。

- 作者:村上春樹
- 出版社:スイッチパブリッシング
- 発売日: 2015-09-10
『職業としての小説家』 by 村上春樹
発売日に紀伊国屋書店梅田店で入手
紀伊國屋書店が初版のほとんどを買い取りしたことで話題の新刊。前日(9日)に丸善で尋ねたところ、「入荷予定もありません」とのことだったので、やはり紀伊國屋で求めるのが確実だろうと思い発売日(10日)の午前中に訪問。
ありました。

すこし奥には「村上春樹コーナー」が、そして入口の同書のポスター横には「紀伊國屋書店は村上春樹氏のノーベル文学賞受賞を応援しています」とのコピーが。
発売1日で数万部の増刷がかかったようですし、アマゾンでも売れ行き好調のようですが、小説のように売れるかというと個人的には疑問だと思っています。
自伝的な記述はあるものの、内容はきわめてマニアックなものです。したがって、よほどの村上主義者か文筆に携わっている人たちしか面白いと思わないのではないかと思うのですが・・・。
ともあれ無事買い求めて、近くのカフェですこし読み、帰宅してから夜までに一気読みしました。

文体を作り上げたときのこと、長編小説完成までの驚くべきプロセス、なぜ批判されるのか等々、興味深いテーマはたくさんあるのですが、やはり、ここでは教育の問題だけに触れることにしましょう。
教育について村上春樹が考えること
「第8回 学校について」で述べられていることのご紹介です。
学校というシステムのあり方、その基本的な考え方は、今でも半世紀前とそれほど違いがないんじゃないか、という気がしないでもありません。
ほとんどすべての学科において、この国の教育システムは基本的に、個人の資質を柔軟に伸ばすことをあまり考慮していないんじゃないかと思えてなりません。いまだにマニュアル通りに知識を詰め込み、受験技術を教えることに汲々としているように見えます。そしてどこの大学に何人合格したということに、教師も父兄も真剣に一喜一憂している。これはいささか情けないことですよね。
僕が経験してきた日本の教育システムは、僕の目には、共同体の役に立つ「犬的人格」をつくることを、ときにはそれを超えて、団体丸ごと目的地まで導かれる「羊的人格」をつくることを目的としているようにさえ見えました。
そしてその傾向は教育のみならず、会社や官僚組織を中心とした日本の社会システムそのものにまで及んでいるように思えます。
そしてそれは――その「数値重視」の硬直性と、「機械暗記」的な即効性・功利性志向は――様々な分野で深刻な弊害を生み出しているようです。
ある時期にはそういう「功利的」システムはたしかにうまく機能してきました。社会全体の目的や目標がおおむね自明であった「行け行け」の時代には、そういうやり方が適していたかもしれません。
しかし、戦後の復興が終わり、高度経済成長が過去のものとなり、バブル経済が見事に破綻してしまったあと、そういう「みんなで船団を組んで、目的地に向かってただまっすぐ進んでいこうぜ」的な社会システムは、その役割を既に終えてしまっています。なぜなら僕らのこれからの行き先はもう、単一の視野では捉えきれないものになってしまっているからです。
そして、いじめや登校拒否の問題について、
教育現場の病的症状(と言っていいと思います)は、言うまでもなく、社会システムの病的症状の投影にほかなりません。
社会全体に自然な勢いがあり、目標がしっかり定まっていれば、教育システムに多少の問題があったとしても、それはなんとか「場の力」でもってうまく乗り越えられます。
しかし社会の勢いが失われ、閉塞感のようなものがあちこちに生まれてきたとき、それが最も顕著に現れ、最も強い作用を及ぼすのは教育の場です。学校であり、教室です。なぜなら子供たちは、坑道のカナリアと同じで、そういう濁った空気をいちばん最初に、最も敏感に感じ取る存在であるからです。
新たな解決方法を見つけることのできる場所を、まずどこかにこしらえていく必要があります。
それはどのような場所か?簡単に言えば、温かな一時的避難場所です。それは言うなれば「個」と「共同体」との緩やかな中間地域に属する場所です。
ライティングのバイブルに
本書は、村上主義者はもちろんのこと、(私もそうなのですが)「自分の心の底にあるもの」を表現したいと願っている人にはとくにお薦めです。言うまでもないことかもしれませんが、凡百の文章本とはまったくレベルが違うものです。
私にとっては、スティーヴン・キングの『書くことについて』と並んで、ライティングの2大バイブルとなりました。
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