はじめに
大学行政管理学会(JUAM)の定期総会・研究集会が、2016年9月9日〜11日の3日間にわたって慶応義塾大学三田キャンパスで開催された。
今回は研究・研修委員会企画による座談会のご紹介である。
筆者が重要だと思ったメモをもとに作成したので、遺漏も多いかもしれない。なにとぞご容赦いただきたい。
当日参加された方々にはフィードバックのために、参加されなかった方々には情報提供のために、すこしでも参考になれば幸いである。
当日の資料集はこちらで頒布(有料)されている。
【注記】「大学行政管理学会誌」第20号(2016年度)(20周年記念特集号)にこの座談会の記録が収録されている。それをもとにリライトし、「修正版」とした。
概要
■日時:2016年9月10日(土)10:00〜11:20
■会場:慶應義塾大学三田キャンパス南校舎456教室
■テーマ:もっと女性が活躍できる大学に〜いま求められていること〜
■話題提供者:
齋藤恵子(札幌学院大学 教育支援課人文学部こども発達学科担当)
松永直子(広島工業大学 教育機構支援室サブリーダー)
村山孝道(京都文教大学 教務課長)
■コーディネーター:
笠原喜明(学校法人東洋大学 人事部長)
2015 年、「女性の職場生活における活躍の推進に関する法律」(女性活躍推進法)が成立しました。これにより、働く場面で活躍したいという希望を持つすべての女性が、その個性と能力を十分に発揮できる社会を実現するために、事業主(国や地方公共団体、一定以上の規模の民間企業等)に対して、女性の活躍推進に向けた数値目標を盛り込んだ行動計画の策定・公表や、女性の職業選択に資する情報の公表が義務付けられました。
一方、大学の事務組織・事務職員の一般的な状況を俯瞰すると、女性職員の占める割合は必ずしも少なくないものの、待遇や昇進面からみると「活躍」と呼ぶには課題はまだまだ山積していると言わざるを得ません。そのような状況も反映してか、JUAM においても女性会員の数はごく少数に留まっています(総会員数 1,403 名中女性会員 247 名。全体の 17.6% *4 月 26 日現在)。より多くの女性職員が JUAM に入会し、自らのキャリア形成のあり方について積極的に考え、問題提起や発信ができるような環境整備が急務となっています。
「未来を拓く」という本研究集会のテーマに合わせ、5年後、10 年後を見据えた将来において、全国の大学で生き生きと活躍する女性職員が大幅に増え、またその結果 JUAM にもより多くの女性会員が入会して活躍するような環境を醸成するにはどうすればよいでしょうか。さらに、性別に関係なく一人ひとりの職員が活躍できる大学であるためにどうすればよいか、本企画を通してそのヒントや方策を探ります。複数の話題提供者に登壇いただき、大学職員としての自身のこれまでを振り返りながら、これからのキャリアや目指す職員像について語り合っていただきます。
「第20回 定期総会・研究集会 資料集」より
座談会
話題提供者発表
齋藤恵子氏
- 性別にとらわれず、フラットな環境のもと、みんなが輝く大学に。
- ずっと働き続けたい。
- 以前派遣で働いていたときのこと。同じような条件で働いていても、女性は辞め、男性は専任になった。
- 専任職員だからこそできるいまの環境。
- 将来、子育てに不安がある。
- 男性も家事や育児に協力することや、育児休業を取得しやすくすることが必要。
- 女性の活躍に消極的な大学。
- 職場ではお互いを理解して支え合える環境が重要。
- 働きやすい職場が、大学の競争力につながる。
- JUAMはそういった提言ができる組織に。
- 学生のロールモデルにならないと。
- 一人ひとりが能力を発揮できる職場に。
- 男女共に多様な働き方が可能になる環境や制度づくりを進めていくべき。
松永直子氏
- 女性の継続就業を妨げる輩がいる。
- 産休や育休が取れない場合の物理的な障壁。
- 日本の女性の出産後の就業率は26.8%と大変低い状況。
- 育休を取得していないと答えた人の理由のトップが「職場の雰囲気や仕事の状況から」(国民生活白書)。
- よくある女子職員像
①マウンティング女子(他者と自分を比べ「マウンティング(格付け)」したがる女性の総称ー筆者注)
②ハイパー女子(完璧を目指す)
③フリーライダー女子 - 職場を「ライバルの多いピラミッド型競争社会」ではなく、「仲間とチーム一丸となって働く自己実現の場」と考えていた。
- 社会の中における自分の位置づけを「外的キャリア」、やりがい、働く動機、社会貢献、使命感等を「内的キャリア」と呼ぶ(エドガー・H・シャイン)。
- 女性職員が働く際には、内的キャリアを涵養することの必要性に気づき、外的キャリアと内的キャリアのバランスを取っていくことが大事。
- 内的キャリアを見直す必要がある。
- 外的キャリアを多様な人材やライフイベント、雇用形態に適応できるように再構築していく必要がある。
- JUAMに望むことは、女子職員キャリアデザインセンター(JCD)の創設。
→キャリア形成支援、再チャレンジ支援など。
村山孝道氏
- オスとメスの生物学的な違い、すなわちヒエラルキー組織を受け入れられるかどうかが影響している(『なぜ女は昇進を拒むのか』から)。
- もっと女性が活躍できる大学に。
- 「特区構想」を具体的な政策・施策として提案したい。
- 女性が活躍していることにより大学の競争優位が増しているという状態がゴール。
ディスカッション
(笠原)うちの大学では、多忙なので、十分女子職員に活躍してもらっている。
(村山)①ライフイベント、②その後、の2つが課題。女性としての良いところを。
(松永)これまでの経験でいろいろな経験を磨くことができた。マイナスだけではなかった。
(齋藤)女子職員の活躍は、女子学生のためにもなる。女子学生の取り込みに力を入れようとする時に、女性の目線から必要なサービスを考えられる女性職員の活躍が必要。
(齋藤)出産・育児休暇の間、成長が止まっていいいのか。
(松永)その期間は、働くことの意味を考えた期間だった。
(村山)欧米は社会モデルが完成されている。
(笠原)松永さんのJUAMへの提言はおもしろい。考えてみたい。
(会場参加者)在宅勤務の問題を、JUAMでも考えていただきたい。日本もそろそろ職場に身を置いている時間だけで考えるという働き方をやめないと、これからどんどん人手不足になるのではないか。
まとめ
時宜を得たテーマである。
話題提供者の3名のお話には、啓発されることが多かった。
冒頭、コーディネーターの笠原氏から、思うように伸びない女性管理職の比率についての指摘があった。
このような時代に、女性が活用されていないことがー理屈抜きでー不思議でならない。
高度成長期においては、教育は金太郎飴のような画一化された企業戦士を育成するために、家庭は専業主婦が守るためにあった。
その高度成長期が終焉し、成熟社会に入ったいまでも、社会制度や人々の考え方が古いまま残っており、その弊害は私たちが見聞きするところである。
「男女平等ランキング、日本は世界111位」。
先日、たまたまNHKの「ラジオ英会話」を聴いていると、このようなニュースが紹介されていた。
世界経済フォーラムで発表された世界各国の男女格差に関する2016年版調査報告によれば、主要先進7カ国の中では、日本は男女平等の度合いが最下位だった。
ちなみに男女平等が最も進んでいるとして、8年連続でアイスランドが1位となっている…。
大学こそが、どの業界よりも先頭に立って、理想的な働き方を実現すべきではないか。
これが筆者の結論である。
そのためには、松永氏が提案されている女子職員キャリアデザインセンター(JCD)の創設など、経験知を理論化する作業が必要だと考える。
今後、大学は激烈な淘汰の時代を迎える。
上記でも話題提供者が述べておられるように、女性の活躍は、職場だけではなく、その大学の競争力の大きな源泉である。
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