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はじめに
大学行政管理学会(JUAM)の定期総会・研究集会が、2016年9月9日〜11日の3日間にわたって慶応義塾大学三田キャンパスで開催された。
今回は設立20周年記念パネルディスカッションのご紹介である。
筆者が重要だと思ったメモをもとに作成したので、遺漏も多いかもしれない。なにとぞご容赦いただきたい。
当日参加された方々にはフィードバックのために、参加されなかった方々には情報提供のために、すこしでも参考になれば幸いである。
当日の資料集はこちらで頒布(有料)されている。
私が思う大学のグローバル化とは?|大学行政管理学会 2016 第20回 定期総会・研究集会(2)
もっと女性が活躍できる大学に|大学行政管理学会 2016 第20回 定期総会・研究集会(3)
概要
大学行政管理学会 設立20周年 記念パネルディスカッション
■日時:2016年9月11日(日)9:00〜11:20
■会場:慶応義塾大学三田キャンパス南校舎ホール
■テーマ:
「未来を拓く〜大学の未来・職員の未来、そしてJUAMの未来〜」
■パネリスト:
松本美奈(読売新聞東京本社 専門委員)
倉部史記(NPO法人 NEWVERY理事、高大接続事業部ディレクター)
水野雄二(獨協大学 教育研究支援センター次長)
竹山優子(筑紫女学園大学 学習支援課係長)
松田優一(関西大学 学生サービス事務局学生生活支援グループ)
■コーディネーター:
足立 寛(立教大学総長室渉外課担当課長 教育懇談会事務局/立教セカンドステージ大学事務室)
スピーチ
松本美奈氏
- 別紙資料の孫福氏の論文には、国立大学法人化についての同氏の怖れと期待がある。期待とは、ピンチはチャンスということであり、怖れとは、大学が政府や財界などの従属物になるのではないかということ。
- 個人的に「キラキラネーム」と呼んでいる学位・学部名称と個性のないPR文句。
- 入試方法別による退学者。AO入試では6人に1人(全体平均は15人に1人)。
- 薬学部の卒業率は10人中7人。これは入試が原因で、大学で必要な科目を勉強していないから。
- 経営>教育になっている。経営は教育を支えるものではなかったか?
- 日本の大学は、25歳以上の学生が少ない。夜間部(2部)の学生数が減少している。多様性が大学のミッションではなかったか?
- 座長に求められるのは想像力。
- 「ハテナソン」をやっていただきたい。「常識」はない。好奇心と質問を。
- 「構想」を自分に問うてみる。
- 学会は何のためにあるのか。
・学会は過渡期。
・経験知を理論知に変えないと学会ではない。
倉部史記氏
- できない理由を探す入試広報課長
・政策検討・実行能力がない。
・組織間の壁を越える提案ができない。
・全体最適化を担う意識がない。
→上の指示をミスなく実行せよ、とだけ教わってきた。この課長の部下も同じような課長になる。
- 導入に向けて動く入試広報課長
・自分達で成果を設定している。
・成果から逆算して手段を講じている。
・所属に関わりなく全体最適化を意識。
→アドミニストレーターと言える。
- 普段から、自分の判断で組織の壁を越えた計画・行動ができているか。そこで、アドミニストレーターとしての資質が測れる。
- 組織の壁を越えた計画・行動のために
・エビデンス重視の議論が必要
・調査・分析も職員の専門性のひとつ
・急にはできない。若いウチから仮説→検証の繰り返しを
・課題から逆算して、解決に必要なプロセスを組み立てる
→JUAMは若いウチからこうした知見を共有し、磨ける場
- 若い人たちに仕事のやり方を教え、リードする。それで大学は変わる。
水野雄二氏
- 職員の「研究」
自分の仕事にどう結びつけるのか。 - 職員の「経営」
ビジネスアドミニストレーションを誰が担うのか。 - 職員の「専門性」
学生との話し方(カウンセリング・マインドを学ぶ)
- JUAMは既存の学会ではない。
竹山優子氏
- 1985年は女性の分断元年。ジェンダーからの解放(男女ともに)。
- 孫福氏の「寄稿」で重要だと思ったのは、ビジョナリーリーダー(自らが組織の革新的なビジョンを示して構成員全体に向うべき方向を示す能力)。
- 「女子大学研究会」での活動。
- 女性職員活躍の課題
・チャンスは取りに行く
・準備から結果までのビジョンとマネジメント
・「誰か」から「わたしが」への腹決め
- JUAMはアカデミックを背景とした現場力。
松田優一氏
- ピア・サポートとは、仲間同志の相互支援活動
- 若手・中堅職員の現状
・目の前の業務に追われている。
・大学は危機的状況らしいという現実
・キャリアビジョンをイメージできない。
- 大学改革研究会の活動
・ワークショップを中心とした学び
- 大学職員に求められるのは、知識に裏打ちされた実務能力。「知識」や「理論」の追求のみに傾倒し、実務に役立てられなければただの趣味。
- JUAMに求めること
・チャレンジに寛容な学会
・会員が主体的に参加し、学会を味わい尽くしてほしい。
- 未来は自分でつくるもの。
パネルディスカッション―JUAMの学会活動はどうあるべきか―
(水野)
JUAMは職能的団体。チャンスはいろいろある。
(松本)
2年前に公立図書館を民間企業に業務委託して、不祥事が起きた。この件についての大学図書館の反応はなかった。業務委託について見なおしたととも聞いていない。
3つのポリシーを誰がやるのか。
(水野)
大学と組織の二重性。それが「文化」になっている。
(足立)
JUAMの学会誌は事例研究が多いが、それが学会の特長で強みにもなっている。
(竹山)
能力をどうやって身につけるか。
複数の研究会に参加している。
若手から見て、JUAMが能力向上に役だっているか。
(松田)
意識の高い仲間との交流。
人材バンク機能と雇用市場へのコミットメント
(倉部)
大学間で移動している人はいる。すでに動きがある。
人材流通の仕組みは望ましい。
理論と研究 学術団体でも職能団体でもない
(水野)
根回しと腹芸ではなく、理論にもとづいたマネジメントが必要。そこにJUAMの存在意義がある。
JUAMへの助言・アドバイス
(松本)
シラバスは学習指導要領になる。ちゃんとやらないとGPへのエントリーもできない。
大学は小・中・高とどう違うのか。
3つのポリシーに魂を入れることがポイント。
とくにCP(カリキュラム・ポリシー)が重要で、どうやって肉付けするかということは職員しか指導できない。
学生が取りやすい時間割。
JUAMに、シラバス・時間割研究会と人材バンクを設立し、全国の大学へ派遣すべき。
経験知を理論知へ。
最後に一言づつ
(松田)
若手にチャレンジの機会を。
(竹山)
育てられる側から、育てる人へ意見を言えること。
(水野)
大学にはイノベーションが必要。「変化を利用すること」(ドラッカー)がイノベーター。
(倉部)
自分で思ったような未来をつくること。
(いまの現状は)予測できていた部分があった。
必要でないことをやめる必要がある。それにはエビデンスが必要。
(松本)
誰も考えていなかったあたらしい大学を、みんなで作りませんか?
まとめ
「知識や理論が実務に役立たなかったことをコンパクトに説明できる事例を述べていただきたい。事務職員のお三名にお尋ねします」
よく聞き取れなかったので正確ではないかもしれないが、松本氏からこのような内容の発言があった。これで寝不足の目が覚めた参加者も多かったかもしれない(筆者もそのひとりだった…)。
予定調和でなごやかに進行すると思われたシンポジウムが、このことによって熱をおびたものに変わったと感じたのは筆者だけであろうか。
テーマにふさわしくないと思われる内容の発言もあったが、全体的にはすばらしいシンポジウムだった。
参加者全員が、「未来を拓く」ために自分がやるべきこと、を考えながら帰途につかれたことだろう。
【追記:2016年11月14日】
松本氏はこの発言のことについて、「IDE現代の高等教育」No.585(2016年11月号)で以下のように述べている(「取材ノート」)。
大学職員を対象にした恒例の集まりの一つで、「(こうした場で得た)知識や理論の追求のみに傾倒し、実務に役立てられなければ、ただの趣味だ」という勇ましい言葉を聞いた。そうか。
「では、こうした場で得た何をどう実務に生かしたのですか」と発言者を含む壇上のお歴々に尋ねると、もごもごと水槽の中の金魚の口のようで、ちっとも要領を得なかった。
▼倉部史記氏と松本美奈氏の対談。すこし古いが、興味深い内容。
▼『大学の実力2017』
本書の収益は、「東日本大震災で被災し、大学進学が経済的に困難になった高校生を対象とする『読売光と愛・復興支援大学等奨学金』(読売新聞後援)に寄付します」(「おわりに」から)とのことだ。筆者も、もちろん購入した。
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