文部科学省「私立大学等の振興に関する検討会議」の第1回配布資料が公表された。
ここでは、以下の2点の資料についてご紹介する。
- 資料3 小林雅之委員提出資料
- 資料4 濱中義隆委員提出資料
資料3 高等教育政策の課題 私立大学を中心に
小林雅之氏(東京大学大学 総合教育研究センター)の提出資料である。
検討課題を
- 高等教育政策の均等化政策と市場化政策
- 財務基盤の強化
の2点としている。
特に重要な政策課題(相互に関連している)として、以下のものが挙げられている。
◯格差の是正
- 地域間格差の是正
- 所得階層間格差の是正
- 私学助成のあり方
◯財務基盤の強化、教育費の配分構造を再検討、とりわけ公費負担のあり方の再検討
- 機関補助と個人補助、基盤経費と競争的経費のバランスの再検討
- 個人補助としての所得連動型奨学金や給付型奨学金の拡充整備
- 経営のためのインスティテューショナル・リサーチ(IR)の強化
◯市場化政策の是非と高等教育システム全体の包括的検討が必要
◯従来の政策、とりわけ市場化政策の検証が不可欠
そして、「エビデンスに基づいた私学政策の必要性」として以下の4点が挙げられている。
◯私学政策を検討するためには、現状を客観的に把握することが不可欠
- 文部科学省「学校基本調査」
- 私立学校振興・共済事業団「基礎調査」
- 日本学生支援機構・国立教育政策研究所「学生生活調査」
◯大学ポートレイトにはごく一部しか掲載されていない。
- 今後活用を検討することになっている。
◯調査統計の分析に基づく政策が不可欠
資料4 学生調査から見た私立大学の学生・教育
濱中義隆氏(国立教育政策研究所 高等教育研究部)の提出資料である。
学生調査の必要性について、「はじめに」で以下の2点が挙げられている。
◯「私立大学の果たすべき役割」を検討する上で学生への着目は不可欠
- ガバナンス、経営、財政支援の在り方は、教育(学生の立場からは学習)とその質を担保する教員の研究活動の充実の観点から検討すべき
- どのような学生が入学し、いかなる学習経験を得ているのかを把握する必要→個別大学の状況だけでなく、より俯瞰的な視点からの把握も必要
◯世論の大学・高等教育政策に対する懐疑
- 「大学過剰論」、「大学・大学生の質の低下」
本当に大学は多すぎるのか?学生の視点からデータで検証
そして、「論点(まとめにかえて)」で、以下の3点が挙げられている。
◯大学教育の機会均等への寄与を考えれば、機関数や学生数の増加から大学過剰とみなすのは短絡的
- 新設大学の教育条件が劣るわけでもない
- ただし機関数が増加すれば中には粗悪な質の機関も紛れるので教育条件等のモニタリングは重要
◯大学類型によって家計収入が異なることの意味
- 機関間の競争を促す上では機関補助よりも個人補助(例えばバウチャー制)の比重を大きくする方が望ましい
- しかし、機関によって学生の費用負担力が異なる場合、一律の個人補助では公平な競争にならない可能性も
- 教育機会の地域配置は以前として重要な課題。国公立大学、短期大学との役割分担を含めて検討する必要あり
◯エビデンスを構成するデータの信頼性・妥当性
- 本来は学生調査以外のデータで分析すべきものも多数あり
まとめ
本会議の検討事項は、配布資料1−1によれば、以下のとおりである。
- 私立大学等の果たすべき役割
- 私立大学等のガバナンスの在り方
- 私立大学等の財政基盤の在り方
- 私立大学等への経営支援
- 経営困難な状況への対応
- その他、私立大学等の振興に関すること
これらのほかに「本来の目的」があるのかどうか、筆者には知る術がない。それはともかく、今後の議論から目が離せないことは確かである。
末尾にある参考資料も、この機会にあらためて目を通し、アタマに叩き込んでおくべきものである。
上記にもあるように「私学政策を検討するためには、現状を客観的に把握することが不可欠」であり、「個別大学の状況だけでなく、より俯瞰的な視点からの把握も必要」であるからである。
今後、多くの私立大学が「穏やかな退場」に追い込まれるのか、それとも多くが生き残り、「教育大国」となるのか?
もちろん後者を願うものだが、それがどうなるにせよ、教育の質充実はつねに日本の大学の課題である。そして、これこそが「教育大国」へのカギを握っているのではなかろうか。
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