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ユリイカ2016年3月増刊号
『ユリイカ』2016年3月増刊号の特集は【出版の未来】である。
そこに興味深い記事があったのでご紹介しよう。
「『裏通り』」の書店の挑戦」と題した鼎談である。
メンバーは以下のお三名である。
堀部篤史(誠光社店主)✕内沼慎太郎(ブック・コーディネーター)✕永江朗(フリー・ライター)
堀部篤史✕内沼慎太郎✕永江朗の鼎談
堀部氏の意見
アウトサイダーの視点が必要。本屋はそろそろ普通に経営努力をしたほうがいい。ソフトの話も大事だけど、他業種に学んで一所懸命に働いて、お客さんに対するサービスをちゃんとする。ただそれだけのことのような気がします。
マーケットが縮小しているのは当たり前なので、だったらどうするかです。マーケットを拡大するなんていうのは個人ができることではない。
だったらダウンサイジングする。出版社はどうするかというと、嗜好性の高いものを作ればいい。
永江氏の意見
国民ひとりあたりの書籍の購買数というのはほとんど変わっていなくて、唯一変わったのは、新刊発行点数が1975年の4倍弱(1万9979点→7万6465点)になっていることで、その4倍に水ぶくれしたのが不況感の原因。
出版社の側からすると「新刊書が売れない」という実感があるかもしれないけど、読者の側からすると、これだけ情報の選択肢が多くなったにもかかわらず本は40年前と変わらず買われている。
ということからすると、なんら悲観することはなくて、1975年のレベルに合わせた商売をすればいいだけのことだと思います。
ただ、出版業界全体への影響でいうと、雑誌ビジネスの崩壊の影響が大きい。
内沼氏の意見
大型書店の劣化版みたいなことをやるくらいなら、全然違う品揃えで自分たちのお客さんをつくっていくほうが、小さい店の生き残り方として可能性がある。
3氏の発言から大学経営を考える
アウトサイダーの視点
既存のシステムにいると、自家中毒にかかっている場合がある。業界内の常識が世間の常識と勘違いしてしまうことなどが、その具体例だ。
外部の人の意見を聞くべきだ、と言っているわけではない。もちろんそのことも大事なことだろう。必要なことは、大学人が高等教育を取り巻く環境や、社会の動きなどにもっと敏感でなければいけないのではないか、ということだ。
「他業種に学んで一所懸命に働いて、お客さんに対するサービスをちゃんとする。ただそれだけのこと」ではないか。
市場に合わせた商売を
少子化にもかかわらず大学数が大幅に増えたことが、大学業界の不況感の原因だ。
ダウンサイジングするだけでは、もはや生き残れないのかもしれない。そうしている大学は数少ないどころか、定員超過率是正への対応で、定員を増やしているところも多い。
このことについては、つぎの「違う品揃えでお客さんをつくる」が効果的な方法ではなかろうか。
違う品揃えでお客さんをつくる
大学の類型化について言われて久しい。
だが、他大学とは「全然違う品揃えで自分たちのお客さんをつくっていく」大学がどれだけあるかといえば疑問だ。
そのようにしてお得意様を囲い込んだ大学が(いつの時代でも)真の勝ち組ではないか。その「品揃え」にあこがれてきた受験生は、第一志望であることが(おそらく)多いだろうからだ。コンスタントに志願者があるにちがいない。
そう考えれば、志願者数の多寡などは、本来あまり意味のない指標かもしれない。
学生募集のテクニックやカリキュラム改革には熱心だが、「全然違う品揃え」をわかりやすく、実績とともに提示している大学は数少ないのではないか。ここに大きなチャンスがあるように思えてならないし、そうあるべきだと考えるのである。
ユリイカ 2016年3月臨時増刊号 総特集◎出版の未来 出版社・書店・取次のリアル
- 作者:浅田次郎,菅直人,千葉雅也,市川真人,鹿島茂,斎藤貴男,高井昌史,福島聡,佐藤健一,堀部篤史,内沼晋太郎,永江朗,鈴木一誌,福井健策,大原ケイ,工藤秀之,小林浩,林智彦,鷹野凌,星野みなみ,香月孝史
- 出版社:青土社
- 発売日: 2016-02-01
- 2040年代における大学の役割と使命 大学行政管理学会(JUAM) 特別シンポジウム(3) - 2018年12月25日
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