「IDE現代の高等教育」No.575を読む。第11回目です。
今回は「企業からみた文系学部」永里善彦氏(経団連 未来産業・技術委員会 産学官連携推進部会長、㈱旭リサーチセンター常任顧問、中央教育審議会 臨時委員)です。
筆者なりにまとめた内容です。
では、ご紹介しましょう。
このページの目次
企業からみた文系学部
はじめに
- 筆者の属する製造業(主として化学製造業)の視点で述べる。
- 企業はどのような文系人材を求めているのか、大学がそれに応えているのか、について記す。
どのような文系学部卒業生を採用するか
- 実に多種多様な文系学部から採用している。
企業の大学新卒の配置状況
ー文系に専門性を期待せず
- 文系博士の採用はなく、文系修士の採用も殆どない。まれに採用してもスタッフ業務につくが、留学生のケースが多い。
- 理系博士の初任配置先は、殆ど研究分野となる。
- 理系修士の初任配置先は、研究、製造、エンジニアリング、保全、その他住宅技術で専門性に応じて多岐にわたる。
- 理系の配置が専門性を加味して行われているのに対して、文系のそれは何ら専門性を期待していない。
企業は文系社員に何を期待するか
- 文系社員に対してはポテンシャルを見る。企業の中で成長する素材なのか。大学で学んだ知識の種類は問わない。その知識ですぐに役立つことを期待しないからである。
- 求める人材像として
①自分で考えて、自分で動ける。
②高い理想と独自の「発想力」を持ち、その実現に向け、周囲を巻き込みながら自ら変革を起こし、やりぬくことができる。 - 大学では、モノの考え方、方法論を勉強してきてほしい。論理的思考や情報収集力やコミュニケーション力がないと会社では成長しない。
社内での育成制度
ー海外留学について
- 公募留学制度と指名留学制度がある。
- 公募留学制度は、文系・理系にかかわらず応募でき、自分の留学したい大学に手を挙げる。
- 指名留学制度は、理系に限っており、所属部門が目的をもって海外の大学に留学させる。
- 文系は専門性を期待しないがゆえに、大学でモノの考え方、方法論を勉強し、論理的思考やコミュニケーション力をつけてきてほしい。
結語にかえて
ー大学自ら改革し「質の保証」を
- グローバル化の競争時代に突入した現在、これからの日本の経営幹部にとって、たとえ理系であっても、この文系の素養が必要とされる時代になってきた。なぜなら欧米の経営幹部は、MBA取得者や博士号取得者が圧倒的に多いが、彼らはリベラルアーツを学び、単に専門性に秀でただけのタイプではないからである。
- 今後、世界に伍して競争に勝ち抜くために、幅広い教養と深い専門性を持った経営幹部を必要とする時代が到来しよう。
- グローバル化の波で大学を取り巻く環境も激変しつつある。いまや大学が自ら改革し、グローバル人材を作るための基礎教育であるリベラルアーツ教育に注力し、卒業生の「質の保証」が担保できれば、産業界は安心して採用しよう。
- 世界で通用する人材を求めている産業界、とくに製造業にとって、質の高い文系学部の存在は、単に文系学生のためにあるのではなく、理系学生のための学びの場としても必要であることを忘れてはなるまい。
感想
- 文系に専門性を期待せず。
- 大学で学んだ知識の種類は問わない。
- 大学では、モノの考え方、方法論を勉強してきてほしい。
- グローバル人材を作るための基礎教育であるリベラルアーツ教育に注力し、卒業生の「質の保証」を担保してほしい。
これらの指摘は、多くの大学の認識とズレがある。
その認識とは、
- 企業では、企業内教育をする余裕がないから、「即戦力」を求めている。
- 多くの大学で「実学」に注力している。
である。
これは見過ごすことのできない齟齬である。
個人的にはどちらも理解できるのだが、さて、どちらを信じればいいのだろうか。
リベラルアーツ教育の必要性が強調されていることについてはまったく同感なのだが、学部教育が主流のわが国の大学で、それを実現するためにはどうすればいいのだろうか。
いずれにしても、「幅広い教養と深い専門性を持つ」ということは、経営幹部のみならず、すべてのビジネスパーソンにいえることであろう。
⇒第12回(最終回):文系学部のプロフィールを読む。
【目次】文系の危機―「IDE現代の高等教育」No.575 2015年11月号を読む
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大学職員ブロガーです。テーマは「大学職員のインプットとアウトプット」です。【経歴】 大学卒業後、関西にある私立大学へ奉職し、41年間勤めました。 退職後も、大学職員の自己啓発や勉強のお手伝いをし、未来に希望のもてる大学職員を増やすことができればいいなと考えています。【趣味】読書・音楽(主にジャズとクラシック)・旅 【信条】 健康第一であと10年!
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