村上春樹の『村上さんのところ コンプリート版』をやっと読み終えました。毎日就寝前に読んで、一ヶ月ほどかかりました。電子書籍版ですが、なんでも単行本8冊分のコンテンツだそうです。
ことしの春にウェブサイトで毎日、朝と夜に読んでいたときはそんなに感じなかったのですが、一冊に纏められるとたいへんな量です。これだけの読者の質問に数ヶ月で答えた村上氏の労力や大変なものがあったに違いありません。
その多くの質問への回答で、印象に残ったものをひとつ。
(Q)アメリカの大学では自分の意見を求められたり、論理的な思考を求められることが多く、今まで自分の意思や考えを消し去り、機械のように答えを暗記していくことに力を傾けてきた僕には、とても大変な学生生活でした。
芸術文化は時間の無駄と思っていましたので、本当に中身のない高学歴者になりかねませんでした。僕はこのことに次第に気づき、僕に一番必要とされているのは文学をはじめとする教養だと思いました。
かつての僕のような「想像力の欠けるうつろな人間」が日本社会にはびこり続けている最大の原因は、想像力や自分の頭で考える力を育てることに失敗している、日本の教育事情にあると思っています。
【注】原文を省略しています。
この質問に村上氏はこう答えています。
(A)僕らはロジックという座標軸を使ってものを考えながら、ストーリーという座標軸をそこに導入することによって、ものごとをより立体的に把握することができます。
ロジックだけではだめ、ストーリーだけでもだめ、その二つを合わせることによって、視点は立体的になります。そのようにすれば「どこまでが出来合いの意見で、どこからが自分自身の意見か」というのが、思いのほか見えやすくなります。
僕が「物語がなくてはならない」「小説を読むことが大事だ」というのはそういう意味合いにおいてです。
芸術文化を含む「教養」を学ぶことは、多岐にわたる効用と愉しみがあると思います。ここで村上氏が述べている「ものごとを立体的に把握することができる」ことも非常に重要なことだと思います。
高等教育関係の文献やビジネス書の読破に追い立てられている日常から距離を置き、芸術に向かい合うことは楽しいだけではなく、きっと自分の考え方に良い影響を与えてくれるのでしょう。
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