大学職員のリアリティ―取材メモから浮かび上がる職員像― 横山晋一郎(日本経済新聞社編集委員)
要約
1.スーパーグローバル大学への挑戦
(A氏の例)都内の大規模私大の学長室長
- 「スーパーグローバル大学創世支援」(SGU)の採択事業で辣腕ぶりを発揮
- 「職員は大学の進化の原動力だ」と言う。
- 学外の研究会や勉強会には積極的に足を運ぶ。
- 国立大学の大学院にも2年間通った。
- 高等教育成立の歴史を学び、修士号も取った。
- 人脈も広がった。
2.ボス型からテクノクラート型へ
- これまでも多くの大学に実力者と呼ばれる職員はいたが、A氏はそうした従来型の実力者職員とはタイプが違う。「ボス」ではなく、「有能なテクノクラート」というイメージ
- 最近A氏のような職員があちこちの大学で増えてきた。
- 大学のガバナンスが話題になっているが、学長や理事長がいくらリーダーシップを発揮したくとも、トップを支える集団がいなければ大学は動かない。テクノクラート型の職員がいてこそ、トップダウンの意思決定が意味を持つ。
3.ぬるま湯にどっぷり浸かる
テクノクラート型が職員の多数派を占めるようになったかというと、そんなことは断じてない。
(B氏の例)民間企業から大学教員に
- 「新しいことを提案しても、職員が全く動いてくれない。具体的に検討することもせず、できない理由を多数、しかも瞬時に言ってくる。まさに糠に釘。暖簾に腕押し。定時になればさっといなくなるし。これじゃ、大学が変わらないわけだ」
(C氏の例)金融界出身の理事長
- 老朽化した校舎の建て替え時期が迫っているのに、具体的な計画が何もできていない。自らパソコンを駆使して必要な資金額を算出して示したが、それでも学内の反応は鈍い。
(D氏の例)民間企業のトップから母校の理事長に
- 同一年齢同一賃金が徹底的に貫かれた給与体系に唖然とした。
これらの3つの大学には共通点がある。トップクラスではないが、戦前からの歴史がある。800まで増えた大学の中では中堅クラスに位置する。トップ校ほど研究教育の分野で厳しい競争に晒されているわけではない。それでいて、18歳人口の減少がさらに進んでも、そこそこは学生を集められそうなポジションにいる。オーナーもいないので、学内はアットホームな雰囲気で居心地はいい。古き良き時代の大学の慣習が色濃く残る。こんな環境では、職員の間に危機感が乏しいのは当然なのかもしれない。そして、似たような環境にある大学は決して少なくない。
4.大学職員は人気職種
- 卒業生以外の新しい血を入れて組織の活性化を図るために、多くの大学が公募制を取り入れるようになった。
- 今では大学職員は知る人ぞ知る人気職種
5.ライバルは地方公務員
- 受験者の4割強は地方公務員が第一志望(関東甲信越地区国立大学法人等職員採用試験事務室)
- 私立でも公務員との併願者は多い。
- 大学職員が人気職種なのは、教育研究機関だからというだけでなく、公務員試験の恰好の滑り止めだからというのが実態
6.大学を生かすも殺すも・・・・・
激動の時代の大学職員はどうあるべきか
- 情熱と専門知識をもって大学運営に関われる有能なテクノクラート型職員をもっと増やす。
- 古き良き時代の慣習から抜けきれない職員の意識改革を促す。
- 若手が存分に力を発揮できる環境作りも欠かせない。
- 大学職員のリクルート活動もさらなる工夫が必要
(大学を取材していて痛感することは)職員が元気な大学は元気
変革の嵐の中で、新しい時代の職員像が徐々に浮かび上がりつつある。
感想
新聞社の編集委員はさすがに読ませます。個人的には、いちばん面白かった記事でした。
公務員の滑り止め組よりは、母校愛溢れるOB・OG職員の方がはるかにいいと思いますが、それでも外部の血を入れることは大切なことです。
「情熱と専門知識をもったテクノクラート型」が職員の大半になるように、入職した職員を育成することもまた必要なことではないでしょうか。
そして、それこそがSDの目的だと考えます。
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