大学行政管理学会(JUAM)第21回定期総会・研究集会が、2017(平成29)年9月2日(土)〜3日(日)の両日にわたって、福岡の西南学院大学で開催された。
今回は、基調講演のご紹介である。
筆者が重要だと感じたことを中心に、以下ご報告する。
したがって遺漏も多いとは思うが、ご了承いただければ幸いである。
■と き:2017(平成29年)9月2日(土)14:10〜15:40
■ところ:西南学院大学 大学チャペル
■講演者:西南学院大学 法学部教授 野田順康氏
■演 題:地球規模問題と人材教育
このページの目次
筆者の気づき
- 貧困・格差は人口増加と密接な関係がある。
- 平和ボケの日本ー平和・自衛・紛争・戦争の実態について議論を避けてきた。
- 今後は中国とインドが台頭してくる。
- 日本はどう生き残るか?
(1)平和国家であり続ける。
(2)信頼される国家・国民
(3)経済的には中規模国家
(4)技術的には最先端 - グローバル人材育成のために
(1)英語を公用語にする。
(2)大学のブリティッシュ・ビレッジ化を図る。
(3)教員の半分は外国人にする。
(4)授業の半分以上を英語で実施する。
(5)留学制度を大幅に充実する。
(6)留学時の単位互換を大幅に認める
とりわけ、今後「日本はどう生き残るか?」で提言されている4つの項目については、強く共感した。
ニュージーランドやアイルランドを思い浮かべるのは、筆者だけではないだろう。
基調講演にふさわしい充実した内容で、多くの学びと気づきがあった。
この場を借りてお礼申し上げたい。
地球規模問題と人材教育
- 地球規模問題
貧困と格差、戦争、地球環境 - 進むグローバリゼーション
- 日本は生き残れるか?
- どういう人材が必要か?
- 貧困・格差は人口増加と密接な関係
- 増加の大半は途上国
- 今世紀末に世界の4人に一人はアフリカ人
1.地球規模問題ー貧困と格差、戦争、地球環境
◯三つの地球規模問題
(1)貧困と格差
- 都市と農村の地域的な水平格差
- 都市内の富裕層と貧困層の垂直格差
- 1つの国に「光」と「影」の2つの経済
- 先進国でも格差は拡大
(2)戦争・紛争・内戦の拡大
- 冷戦の崩壊は世界を安定化させたか?
- 新興国の台頭
- BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)
- 人口増加→資源獲得→領土拡大
- アジアの不安定性
(3)気候変動と地球の温暖化
- 人口増とCO2には、明らかに相関があると考えざるを得ない。
2.進むグローバリゼーション
◯ヒト、モノ、カネと情報の国際的な流動化(特に、財、人、企業のグローバリゼーション)
(1)世界経済の融合と連携の深化(TPP等)
(2)異文化交流の機会増加
(3)政治的影響の連鎖
(4)社会問題の世界化
◯グローバリゼーションの経緯
- 戦後の多国籍企業の急成長(1970年代に用語が定着)
- 国際問題に関わることなく生きることはできない時代
経済危機の同時発生
- アジア通貨危機(1997)
- リーマンショック(2008)
3.日本は生き残れるか?
◯米国のアジア戦略
- 日本はアメリカの繁栄のために死活的な地域
- 日本の集団的自衛権の禁止は協力の制約
- アジアの覇権国家の台頭を防止する。
- 近い将来に中国と武力衝突する可能性
◯平和ボケの日本
- 平和・自衛・紛争・戦争の実態について議論を避けてきた。
◯政府の対応・国民が認識していない大転換
- 集団的自衛権の行使で、いつでも戦闘可能
◯アベノミクスはどうしてくれる?
- 実際に起こっていることは「国際競争力の低下」「財政危機の悪化」「世代間格差の拡大」
◯日本はどう生き残るか?
- 平和国家であり続ける(米中戦争を回避する役割を担う)
- 信頼される国家・国民(日本と付き合っていれば良いことがある、安心だ)
- 経済的には中規模国家(受容できる生活水準は維持、老後の生活に安心感=コミュニティの再生)
- 技術的には最先端
4.どういう人材が必要か?
◯グローバル人材
要素Ⅰ:語学力・コミュニケーション能力
要素Ⅱ:主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感
要素Ⅲ:異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー
◯TOEFLスコアの国別ランキングでは、日本は163カ国中135位、アジアの中では30カ国中27位という低位置。
◯日本から海外への留学
- 最大の問題点は、帰国後留年する可能性が大きいこと。
◯グローバル人材育成に係る初等中等教育の諸課題
(1)英語・コミュニケーション能力等の育成、異文化体験の機会の充実
(2)高校留学等の促進
(3)教員の資質・能力の向上
◯何をすべきか?
- 英語を公用語にする(TOEIC800点以下は教職員として採用しない)
- 大学のブリティッシュ・ビレッジ化を図る(欧米にいるような雰囲気をつくる)
- 教員の半分は外国人にする
- 授業の半分以上を英語で実施する(国際教養大学、APUなど)
- 留学制度を大幅に充実する。
- 留学時の単位互換を大幅に認める
まとめ
西南学院大学のウェブサイトによれば、野田教授の教育方針はユニークなもののようだ。
目指しているのは「年に50人の国際的なエキスパートを育てること」。
具体的な数字でいうと英検1級、TOEIC900点レベルに挑戦できる学生を1年に50人ほど送り出したいと考えているそうです。
その目的は「西南学院大学の学生は6,7割が地元に残るということですから、まさに福岡経済の中核となっていく人たちが大勢いるわけです。
これから福岡は国際事業に乗り出していかなければいけませんが、現状では福岡に国際的なエキスパートはとても少ない。
だからこそ、西南から少なくとも年に50名程度のエキスパートを、10年間は出していきたいと思っています。
そうすれば、500人ぐらいのかたまりができて、それだけで国際ビジネスができるようになりますからね」
と熱い思いを語ります。
講義の7割は英語(振り返りの部分のみ日本語)だそうである。
さらに、英語修得のコツをこう述べておられる。
英語力や国際的感覚を身に付けるには、海外へ行くのが一番の近道です。
しかしながら、誰もが留学できるわけではありませんので、日本にいながらその力を付けられる方法を指導します。
それは“自分の中に海外を作る”ということです。
私は英語のニュースを見たり、英字新聞を読むなど1日1時間ほど英語にふれる時間を作っています。
みなさんもこれを4年間続ければ、TOEICで800点以上は取れます。
常にそこに英語があふれているという生活環境こそが大事なんですよ。
大学職員とて、世界共通語(リンガフランカ)としての英語修得は必須の時代である。
そして英語は、世界でいま何が起こっているのか、を正しく知るためのツールでもある。
一国の高等教育行政を担う大学職員がそうでなければ、「ガラパゴス集団」だと言われても反論できまい。
使えない人たちのー言い訳めいたーネガティブな意見に惑わされず、自分だけはマスターしておきたいものである。
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